展覧会について


「新進芸術家選抜展FAUSS 2016」は、7名の若手作家による美術作品の展覧会です。「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」(文化庁)のもと、平成25年度以降毎年開催してきた「新進芸術家育成交流作品展FINE ART / UNIVERSITY SELECTION」の出品者に再度作品発表の機会を提供し、彼らの活動を継続的に支援すること、また都内での作品発表によって彼らとその作品をより広く発信することを目的としています。(「FAUSS」は、FINE ART / UNIVERSITY SELECTION×SELECTIONの略称です。)
7名の出品者は、「新進芸術家育成交流作品展FINE ART / UNIVERSITY SELECTION」(平成25年度、26年度、27年度)の国内出品者計195名の中から、ファインアート展実行委員会が委託した外部選考委員の審査によって選出されました。

出品者

飯嶋 桃代(いいじま ももよ)
江藤 玲奈(えとう れいな)
柏木 健佑(かしわぎ けんゆう)
髙橋 佑太(たかはし ゆうた)
古橋 香(ふるはし かおり)
森糸 沙樹(もりいと さき)
山元 梨香(やまもと りか)

選考委員

大谷 省吾(おおたに しょうご)/東京国立近代美術館美術課長
日沼 禎子(ひぬま ていこ)/女子美術大学准教授
古谷 稔(ふるや みのる)/書学者、東京国立博物館名誉館員
柳沢 秀行(やなぎさわ ひでゆき)/大原美術館学芸課長
(五十音順、敬称略)

出品者選考の経緯

「新進芸術家選抜展FAUSS 2016」の出品者7名は、「新進芸術家育成交流作品展 FINE ART / UNIVERSITY SELECTION」の出品作品にもとづく一次選考、ならびに作家ファイルにもとづく二次選考によって、以下の経緯で選出されました。

一次選考

平成28年3月下旬~4月初旬

「新進芸術家育成交流作品展 FINE ART / UNIVERSITY SELECTION」(平成25年度、26年度、27年度)の国内出品者195名の中から、同展に出品された作品の写真をもとに「新進芸術家選抜展FAUSS 2016」出品者候補24名を選出。

二次選考

平成28年4月中旬

上記候補者に、一次選考結果を通知し、二次選考へのエントリーの意志を確認の上、二次選考のための審査資料として作家ファイル(作品写真、作家略歴など)の作成および提出を依頼。 

平成28年5月中旬~6月初旬

二次選考エントリー作家19名から提出された作家ファイルをもとに「新進芸術家選抜展FAUSS 2016」出品者最終候補7名を決定。

審査総評

審査総評

大谷 省吾 / 東京国立近代美術館美術課長

 新進芸術家育成交流作品展「FINE ART / UNIVERSITY SELECTION」は、「大学からの文化力発信プロジェクト」(文化庁)として「若手芸術家に対する研鑽機会の場を提供する」という趣旨のもと、これまで3回にわたり開催されてきました。私は初回に関わらせていただきましたが、ギャラリートークでの意見交換など、国内外の美術大学およびその卒業生たちの良い交流の場となっていたように記憶しています。見る側としても、これだけ各地の美術大学の出身者の作品を一堂に見ることができる機会は貴重なものです。この3回の出品者のなかからさらに作家を絞り込んで、新たに発表の機会を設けようというのが、今回の「FAUSS 2016」です。
 これまでの3回の展覧会では、各作家1点ずつしか展示できませんでしたから、今回のように、まとまった数の作品を展示できる機会が設けられるのは意義のあることです。たとえば、今回の出品作家でいえば、山元梨香さんの作品などは、複数まとめて見ることで、作者の意図がより明確に浮かび上がってくるでしょう。しかし一方では、作家の数を絞り込まなければならない。選考の作業は悩ましいものでした。私としては、自らの制作に対して、客観的・批評的な視点を保持しながら、これから何に取り組むべきか自覚的に臨んでいるという姿勢が作品から垣間見える人をなるべく推したつもりです。いずれにせよ、日本全国、各地の大学で学んだあと、制作発表を続けようと頑張っている人たちの歩みが、各作家のポートフォリオから伝わってきて、そうした作家の存在を多くの方々に知っていただく機会の重要性をあらためて感じました。このたびの展覧会がそれぞれの作家にとって、そしてご覧いただく方々にとって、新しい出会いの場となることを期待します。

日沼 禎子 / 女子美術大学准教授

 ひとりひとりのアーティストが生み出した力のある作品を前にした審査は大変難しいものでしたが、審査員が議論をつくし、推すにふさわしい作品を選ぶことができたと思います。
 特に私が難しいと思ったのは、絵画、立体、版画という異なるメディアの中で、限られた選出をしなければならなかったことです。今日の表現はボーダレス化がますます進み、従来的な表現の枠組みに位置付けることが難しくなっており、今後ますますその傾向は強くなってくることを改めて認識をする機会となりました。
 例えば多くの公募展や、アーティストを懸賞、育成する趣旨での展覧会でも同様のことが起きていますが、中でも、例えば若手平面作家を対象とする「VOCA展」では、長年の経緯の中で、平面という枠組みの捉え方に広く幅を持たせることで、絵画表現以外にも、多様な表現を試みる若手アーティストを受け止め、世に送り、問いかける場を培ってきています。
 では、「FAUSS 2016」はどうでしょうか。本展は、芸大・美大を通して推薦を受けたアーティストが対象となり、いうまでもなく、今日の芸術・美術教育のありようも顕在化させるものでした。若いアーティストはたくさんの可能性を持ち、教育の場ではその個性、能力を最大限引き出せるように、各機関が創意工夫の中、ご指導されていることでしょう。しかし、ひとたび大学を出て、アーティストとして活動をしていくにあたっては、メディア別による枠組み内での評価ではなく、表現力そのものが試されていくこととなります。その意味では、今後はメディアの枠組みを超えた審査を行っていくあり方もよいのではないかと思います。また、懸賞にあたっては、展覧会出展の機会を与える支援に加え、国際的に活躍できるアーティスト、すなわち、Universalな視座を持ったアーティストを育てるために、例えば中長期にわたる海外研修(例えばアーティスト・イン・レジデンス)のチャンスを与える制度に取り組んでみてもよいのではないかと考えます。目まぐるしく変化する社会の中で、自信を持って表現の世界で活躍する若いアーティストが、本プロジェクトを通してこれからも数多く育っていくことを願ってやみません。

古谷 稔 / 書学者、東京国立博物館名誉館員

 書道史を振り返ることによっていくつかの変貌の歴史をとらえることができ、書の文化創造が見えてきます。たとえば、中国東晋の王羲之書法を基本にして、日本の書が進展を遂げ、平安時代には三筆・三跡といった能書家を輩出するに至り、その後も中国書法の影響を受けながら、各時代に多彩な書が生みだされました。現代の書は、そうした長い伝統に支えられながら、中国や日本の古典と称される書に注目し、書家自身の書風形成に役立ててきました。古典を真に学ぶには、目で鑑賞するだけでなく、実際に臨書によって古典を学ぶ方法が今も行われ、現代の書を大きく支配しています。
 日本の書は、古来、中国大陸から伝わった、篆書・隷書・楷書・行書・草書などさまざまな漢字の書体が育まれる一方で、漢字からかなが案出され、連綿や散らし書きはじめ、日本特有の和の美が作られるなど、豊富な文字の世界が芸術的な手法によって、多様な書芸術へと展開しました。今、こうした伝統的な書の至宝を手放すことなく、次世代を担う、若き芸術家を育成する礎として、世界に発信できる書の創造が渇望されるところです。
 このたび、日頃から書学を専攻する者にとって、可能性ある新進芸術家を選考することはきわめて困難な作業を伴いました。魅力的な作品も多く評価に戸惑いましたが、最終段階で髙橋佑太氏の作品に目が止まりました。書の古典を幅広く謙虚に学ぶ姿勢とともに、制作にあたって気韻生動を目指した高い目標とともに、書芸術に向かうべき基本を備えている点などが主たる理由です。作品の傾向は金文を基調とした制作が中心を成し、書の古典を導入した安定した書風を展開しています。他に楷書、行草書、かな、篆刻にも興味を示し、それらの書法をいかに生かすかは今後の課題となるでしょう。出品者の皆さんにはいずれも、こうした書の古典を踏まえつつも、失敗を恐れず、広い世界観のもとに自在な運筆を心がけた制作を期待したいと思います。

柳沢 秀行 / 大原美術館学芸課長

 新進芸術家育成交流作品展「FINE ART / UNIVERSITY SELECTION」は全国各地の美術教員養成系のコースに学ぶ学生からの応募が多数を占めるため、その出品者達を母集団にした新進芸術家選抜展「FAUSS 2016」の審査はとても難しくなることを予想していた。
 私自身、東京から離れた場所に暮らすゆえ、情報過疎地(かつて、倉敷の美術大学に通う学生たちの大半がヤノベケンジを知らなかったのに驚いたことがある。美術手帖を読んだこともない学生だっているのだ!)ゆえのメリットとデメリット、そして学内で指導する教員を含めて彼らを取り巻く環境によって、原石たちはどのようにでも輝いたり、くすんだりもしてしまうことを知っているつもりだ。それゆえ、今回の展覧会で、極端に言えば、洗練された完成度の高い作品と、ちらりとでも強い才能の片鱗を感じさせる作品のどちらを選ぶのか、という場面に直面させられるだろうと想定したのだ。また教員の強い影響下で公募団体展のスタイルしか見えていない学生も多いだろうし、だとしたら、その強固な覆いの下からどれほど自分の個性を露出させるのか、その覗き具合も評価してあげなくてはならないだろうなどとも考えていた。
 実際の審査では、まさに想定通りの問題に直面させられた。もっとも大谷、日沼の両選考委員との闊達な意見交換と、お二人の聡明な判断に導かれて、実に納得のいく選考が果たせた。限られた人数ではあるが、実現する展覧会の会場の充実ぶりは、他にあまたある若手作家のグループ展にも見劣りしないものとなるだろう。
 最後にぜひ書きとめたいのは、今回、落選となった方たちへ向けた言葉になる。こうした審査においては必ず生じることだが、入落は一人一人への絶対評価ではなく、あくまで全体の中での相対評価である。実際、今回の審査は、しばしば選考委員みなが、どちらを取り上げるべきかしばし熟考を余儀なくされる高レベルであった。次のチャンスを生かすには広く世界を、そして深く自分を見つめて欲しい。

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